リーダー

リーダーです。

齢四拾六ともなれば、それなりに体躯を休ませねばならぬ時があり、休日ともなれば、因循極まる性格故か1日はモラトリアムを決め込む所であるが、来週は以前御世話になった会社の同僚と食を喫する機会含め、勤務時間外に外せぬ都合が幾つかあるが故、この土日はゆっくり家に居ようかと思っておった。

さすれど、「君、この様な陽気に二日間家に閉じ籠るのは如何かと思うよ。どうだい、君が好きな楽器屋にでも行って来ては?なぁに、私の事なら気にしないでくれ給え。ジムにでも行って汗を流して来るとするさ」とジムに行きたい妻の甘言に唆され、家を出る。

家人の甘言に乗るのも癪と言うものだが、いざ出てみれば、成る程、見事な霜月の快晴が自然と歩を進めるのだから、唆されるのも悪くはないではないか。

ぶらりぶらりと歩けば、通勤時に通り掛かる小学校の道沿いには、学童が育てた花壇等があり、先を急ぐ訳でもないのでゆっくりとみて回れば、花に適さぬ霜月とは言えそれなりに目を楽しませてくれる。

長く目を楽しませてくれた百日紅は、百日も赤い花が咲くがその当て字の由来と聞くが、流石にもう花は無く、名の由来となった滑らかな幹は、滑らか故に他の木よりも寒々しい様である。季節的にそろそろ牡丹であるが、この学校の花壇で見掛けた記憶はない。

日のさせば やつれあらはに 寒牡丹
美しく 老いるは難し 白牡丹

今年1月に上野東照宮のぼたん苑を訪れた際に拝見した俳句だが、誰の句だったか記憶にない。もしかして、市井の俳人なのだろうか。大したものである。牡丹の美しさを詠むのではなく、散る様の無残さを、恐らく人の老いと掛け合わせて詠むと言うのだから恐れ入る。

トレモロを欲しいと思ったものの、物欲は然程強くなく、はて、何処へ行こうかと思えば、新大久保へ行こうと相成る。

新大久保と言えば、THE中古楽器屋な訳であるが、それは副次的な目的に過ぎず、何となく百人町の皆中稲荷神社を見てみたくなった次第だ。

江戸時代の鉄砲百人隊がその名の由来となった百人町は、その昔楽器の街だったとかで、なんでも楽器修理が出来る復員兵が集ったのがその始まりと聞くが、今や数件の楽器屋やライブハウスを残すのみで、コリアンタウンの印象しかない。

韓流なるものに全く興味が無いが故、この街を歩こうと思った事は無いのであるが、何故に唐突に行きたくなったかと言うと、甚だ可笑しな連想で、であった。

百日紅⇒百⇒百人町

全く僕と言う人間の矮小な連想にはほとほと嫌気が刺すと言うものだが、敢えてその矮小な連想を賞玩するも良かろうと山手線に揺られた訳である。

歩くのが好きであるとは言え、優越な都会人種宜しく着飾った連中が闊歩する街等は、歩くを楽しめず自我を没する事となるのであるが、新大久保と言う街は、「活発にして無造作」な異邦人如く振る舞えるが宜しい。

それにしても乗り慣れぬJR山手線とは、中々どうして興味深いではないか。

循環線と言うものは、向かう人、帰る人のコントラストが曖昧にして、常に殷賑たる様があり、「はて、ワタクシは何処に向かっているのかしらん」と己を失う雰囲気がある。

新大久保に着いてみれば、それは喧騒と言うに相応しくなく、混乱、と言う様相。

THE中古楽器屋にてシリコンクロスとハイパーミクロクロスを購入・・・・だけでは済まず、Grinning Dog Studioのピックアップ、EJ1の中古を購入してしまう。 

リア・ピックアップ用と言う事でリード線は短いのであるが、小生の我が儘を快く引き受けてくれるメインテナンス屋さんがあるので装着に問題は無かろう。

本当は同工房のE60s styleが欲しかったのであるが、「出力が大きいリア用のシングルコイルは、DiMarzioのDP188DP223と言う高出力のピックアップをマウントしているワタクシのStratocasterには合うのではなかろうか、それにGrinning Dog Studioのピックアップは今まで幾つか試して来たがハズレが無いではないか」と相も変わらず根拠の無い推測をし、マウントした際のサウンドを想像し暫し耽溺するに至り、「これ、下さい」と口が滑らかに動き自分で驚いた始末である。

「君と言う人間は全く持って節操と言うものを持ち合わせちゃいないんだね?愈々僕も呆れたよ」と自分Aが呟く。

「随分な言い掛かりじゃないか、君。僕には僕の考えと言うものがあって事だよ」と自分Bが反論、しかし、すかさず自分Aが言い返す。

「君、Eric Johnson、興味無いではないか」

嗚呼、自分Aの残酷さよ、中腰な物欲に反比例するかの如く猪進して購入したピックアップを片手に反論出来ず困窮している自分Bを浮いた顔して嘲笑う残忍さよ。

跼天蹐地を具現化したかの如く憔悴の体の自分Bは、幼稚な内容と知りつつ反論する。

「これから好きになれば良いではないか」

しかし既に自分Aの姿は無く、一人混乱の街中に取り残された自分Bであるが、此処で出会わなければ選択しなかったであろうピックアップに不思議な満足感も覚えていた。背徳感は時に満足感を覚えさすものだ。

目的である皆中稲荷神社への参拝もそこそこに、一旦帰宅しNaked Guitar Worksに向かう。帰路の山手線で、Eric Johnsonを聞きながら・・・・である。



成る程、Stratocasterのリア・ピックアップとは思えぬ太いサウンドではないか。しかしながら、これを担うはFuzz Faceではなかろうか、と思ったりする。 と言うか、ピックアップ交換だけでこのサウンドを得るは難しかろう。

「このピックアップを搭載すればあの音が・・・・」なる謳い文句は眉唾物であろうかと思う。例えば吾輩がJimi Hendrixが実際に使用していた機材を以って演奏したとしても同じ音は出ないだろうと確信する。

「と言う訳でピックアップを交換してくれ給え」

「それは構いませんが今日のこの中途半端で鬱陶しい明治文学風なニュアンスはなんなんで?」

「それは君、文豪ストレイドッグスを見てたら何か夏目漱石読みたくなって読んだら感化されちまったと言う訳さ。僕と言う輩はどうにも影響され易くて行けないや。僕の異能力はアレだね、”魔改造”だね」

「・・・・まぁ、どうでも良いですが」

「じゃあ僕はトーキーでも観てカツレツでも食して時間を潰しているのでその間に対処してくれるかね」 

「あのね、リード線交換しなきゃならんしそんな早くは出来ませんよ」

「え、マジで?いや、オイ、なんとかしろって」

「おい、明治文学何処行った?」

「焦った時に文学なんざ何の役にも立たねえんだよ馬鹿野郎!」

「なんの逆切れだそりゃあ!」

成る程、リード線の交換ともなれば彼奴等めの言う所に納得感はあるが満足感は別である。だが、此処で引き下がるのも癪と言うものだ。

「金田一耕助なる探偵を知っているかね?」

「・・・・なんです唐突に?」

「名探偵と言われているが、僕が読んだ限り、殺人者に対象全て殺された後で解決し、挙句の果てに殺人者が自殺しちゃうと言うさ。”常に間に合ってないじゃん”なのに名探偵なんだそうだよ」

「・・・・少し話が分かって来たぜ」

「客の希望する時間に作業を終えぬ名店、こは如何に?」

「アマゾン・プライムってあるじゃないですか」

「・・・・もうオチが分かったぞコンチクショウ。定額なんぞ払わんぞ」

「だったら・・・・分かりますね?」

「覚えてやがれ!」と小悪党宜しく捨て台詞を吐いたは良いが、直ぐに試せぬと言うのはなんとも腹立たしい限りだ。

悔し涙をハンケチで拭い、ガス燈の下の喫煙所でシガーに火を付け一服。すっかり日が落ちた帝都の寒空の下、舶来品のマントの襟を正す。

「まぁ、明日にでも受け取りに行くとするさ」と呟き、帰路に着く。



・・・・と言う一日になる予定である。うん、上記は全てこれから起きる筈の事なんだ。

ピックアップが売り切れてたら?知らん、書き直さんぞ俺は。

さて、上記の通りとなるか、将又・・・・結果は明日のBlogで。

では、行って来まぁす!